扉の向こうは江戸時代「中山道」広重美術館 秋季特別企画展(中期2)


さて、今回は、②中期「小田井~落合」の続編の話しになります。

 

現在で言うところの「長野県北佐久郡御代田町~岐阜県中津川市」のエリアです。

 

急峻な木曽谷地域を通る木曽路11宿(贄川宿~馬籠宿)を含んでおり、自然豊かな山間の風景美が見どころです。

 

ツーリングでもよく走るエリアなので、より親近感がわいてきます。

 

渓斎栄泉が24図を描いた後、歌川広重が引き継いでいるので、①前期に比べると②中期は広重の描く作品の割合が増えてきます。

 


■二人の浮世絵師

 

・渓斎栄泉:寛政三年(1791年)~嘉永元年(1848年)

 

 江戸の下級武士の子として生まれる。幼少期は狩野白桂斎に絵を学ぶ。その後、文化七年(1810年)頃、菊川英山に弟子入りし、文化末頃から作画活動を開始する。文政五年(1822年)頃から美人大首絵を盛んに手掛け、美人画・春画の名手として知られるようになる。

 

・歌川広重:寛政九年(1797年)~安政五年(1858年)

 

 江戸の定火消同心の子として生まれる。文化八年(1811年)頃、歌川豊広に入門。最初期は役者絵を手掛け、やがて美人画に転向する。豊広没後は主に風景画を制作し、天保二年(1831年)頃刊行の川口屋正蔵版「東都名所」(一幽斎がき東都名所)で好評を得る。その後、天保四年(1833年)頃から「東海道五十三次之内」(保永堂版東海道)を手掛け、風景画の名手としての地位を確かなものとする。

 


 

いまから190年前の江戸時代、歌川広重の描く名所絵(風景画)は人気を得ていました。

 

その理由は、当時の錦絵としては卓越したリアリティーにありました。

 

今でも国内外で高い人気を博す浮世絵師でもあります。

 

何とも言いようのない、しみじみとした情趣感・・・

 

見る者の心を捉えて離さない魅力は一体どこにあるのでしょうか・・・

 

 

■歌川 広重 作 木曽海道六拾九次之内 洗馬

 

洗馬宿(せば)は、現在の長野県塩尻市にある。 といいますが・・・

 

国道19号は幾度となく走りましたが、ここは一度も立ち寄ったことがありません。

 

それにも関わらず、この錦絵の前では思わず立ち止まり、見惚れてしまいました・・・

 

 

『Google Map』で場所を確認してみました。

 

 

中山道「洗馬宿」の西側を流れる奈良井川の情景でしょうか。

 

まばらな人家を背景に、川面は穏やかに波立ちながら、船や筏を運んでいく鄙びた風景です。

 

秋風に吹かれて揺れ動く柳の向こうには、ぼんやりと浮かぶ満月があります。

 

 

広重の持ち味に挙げられる叙情性が、如実に表れた傑作と云われています。

 

 

まず、これが「肉筆画」ではなく「版画」というのが驚きです。

 

多色刷りの木版画は、使用する色の種類が増えるほど、版木(色版)を作らなければなりません。

 

いったいどのような工程で摺りが入っているのでしょうか・・・

 

 

広重の描く名所絵(風景画)が高いリアリティーを持つ要因の一つに、さまざまな遠近法を駆使した空間の奥行き表現が挙げられます。

 

遠近法は、透視遠近法,空気遠近法,色彩遠近法などがあります。

 

・透視遠近法:遠くのものほど次第に小さくなり、水平線上の一点(消失点)に集まる図法。

 

・空気遠近法:大気の作用によって遠くのものほど霞んで見える図法。

 

・色彩遠近法:赤は前進色で近くに感じる色、青は後退色として遠くに感じる色、色の心理的効果を用いる図法。

 

広重の描く空間には、さらに2点透視遠近法も取り入れられています。

 

・2点透視遠近法:画面左右の2方向に向かって風景が遠ざかる奥行きを表現した図法。

 

右奥の人家に遠ざかっていく斜め方向の奥行き。

左奥に遠ざかっていく柳の奥行き。

遠くに見える木々が霞んで見えるという奥行き。

満月の周辺には淡い青色のぼかし。

 

こうした複数の遠近法を効果的に駆使して、リアリティー豊かな絵画空間をかたち作っているのです。

 

そして、最大の魅力はその豊かな情趣性にあります。

 

秋風や満月など、風景の繊細な表情を版画の小さな画の中で見事に捉えています。

 

巧みな天候の描き分けにより豊かな季節感も醸し出しています。

 

さらに、しみじみとした情趣感を下支えしているのは、繊細な色づかいです。

 

夕空の繊細な色づかいが、感傷的な気分にさせるのです。

 

薄墨色,藍色,紅色の微妙な重ね摺りによって表現された黄昏時の複雑な夕空の表情が、柳の枝の向こうに上る満月と相まって、そこはかとない旅愁を醸し出しています。

 

なんともいえない絶妙な摺り色が、見る者の琴線に触れるのでしょう。

 

川面の穏やかな波立ちや水辺の葦、揺れ動く柳の枝からは、風の音さえも聞こえてきそうです。

 

この臨場感豊かな表現が、見る者の心を魅了するのでしょう。

 

 

■木曽海道 洗馬宿(現・長野県塩尻市)


 

◆秋季特別企画展

 

 出版190年記念 渓斎栄泉・歌川広重

 木曽海道六拾九次之内

 摺り違いの愉しみ

 

 ①前期:2025年8月28日~9月28日 日本橋~追分

 ②中期:2025年10月2日~11月3日 小田井~落合

 ③後期:2025年11月7日~12月7日 中津川~大津

 

 3期全点入れ替え

 18年ぶり全点公開&徹底比較

 


 

■中山道広重美術館

 

円熟期の広重が中山道を描いた「木曽海道六拾九次之内」など、浮世絵版画を中心に収蔵しており、ほぼ毎月入れ替え展示。模擬版木を使った重ね摺り体験も人気。

 

午前9時30分~午後5時(入館は4時30分まで)


旅のはじまりはモーターサイクル。

 

自由への扉をひらこう。